TPP 大筋合意とベトナム
環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に参加する日米を始めとする12カ国が去る
10月5日、交渉が大筋合意に達したとする声明を発表した。
2010年3月から始まったTPP交渉は5年半を経て終結し、世界の国内総生産(GDP)の約4割を占める巨大な経済圏が誕生することになったが、12カ国の中にベトナムが含まれていることはつい忘れがちだ。その加盟12カ国の中でベトナムは唯一の社会主義国でもある。
そのベトナムを政治リスク・コンサルタント会社のEurasia Group は今回のTPP大筋合意における最大の勝者と持ち上げる。
同グループは発表した報告書によると、TPPにより、今後10年でベトナムのGDPは加盟しなかった場合と比較して11%(約360億米ドル)分増え、輸出も28%増と跳ね上がる。特にその好影響はベトナムのお家芸、アパレル部門で顕著に表れ、今回の大筋合意により今後10年で50%強の増加が見込まれるという。
一方、ベトナムにとって、TPPに参加することは経済的側面でなく、政治面でも恩恵をもたらすようだ。ベトナムは依然、南シナ海のルート、領有権等を巡って中国と緊張関係にある。南シナ海パラセル(中国名・西沙)諸島付近で中国が2014年5月に強行した石油採掘問題も唯でさえよくない両者の関係に影を落とした。「ベトナムにとりTPPは大国中国へのけん制」(外国筋)とする見方もあり、TPPはベトナムの安全保障強化にも一役買っている。
しかし、今回のTPP大筋合意はベトナムにとって、いいことずくめばかりではない。得意のアパレル産業は原料や素材を中国に依存している部分もあり、TPPの厳格な原産地規則は足かせとなりかねない。TPPの規定に沿って無関税扱いを受けようとするなら、原料や素材に中国のものが混じっていてはいけないからだ。
ベトナムにとっての最大の強みと言われる人件費も上昇傾向にある。この10年だけでも製造業の人件費は時給1.96米ドルと3倍に増えた。まだまだ、中国の時給3.27米ドル、米国の時給37.96米と比較すれば安い水準に抑えられているが、この強みも時間の推移と共に薄れてくるのは必至だ。
今回のTPPの大筋合意、ベトナムにとり、プラスの側面が多いようだがしばらくは推移を見守りたい。